~浜田の水産業・山陰中央新報掲載~(掲載日:2013年9月1日~29日)

山陰中央新報に浜田の水産業シリーズとして掲載。当組合の下野理事長をはじめ、多数の組合員の方が掲載されています。浜田市の水産業の活性化・取組みがわかります。是非、ご覧くださいませ♪

 明日へつなぐ<石見活性化企画> : 第5部 浜田の水産業(1) 高評価の鮮魚
 


「八吉」が提供する、浜田漁港から届いた生の魚。来店客の評価は高い

 都会地から「指名買い」

「島根の浜田漁港から今日届いた魚です。ご要望に応じて塩焼き、煮付け、から揚げに調理できます」

東京・秋葉原の海鮮居酒屋「天地旬鮮 八吉(やきち)」。落ち着いた雰囲気が漂う店内の個室に、店員が10種近い生の魚を盛ったざるを運んで来て客に薦める。

八吉は外食チェーンの一六堂(東京都中央区)が都内中心の35カ所に展開する、中核的な店舗。ノドグロ、アマダイ、イサキなど生の魚を客に見せ、選んでもらうスタイルは「本物」を提供している自信の表れにほかならない。

同社は漁港で競りに参加し、魚を直接買い付けられる「買参権」を持つ。浜田漁港では2004年に浜田営業所を開設し、直接仕入れを始めた。早朝に競り落とした魚は東京・築地市場行きのトラック便を利用し、翌日には都内の店舗に並べる。市場や問屋を通すよりも最低1日は早く届く。

浜田営業所からは、八吉を含め約60店舗へ週6日発送。その中で店側が「これだけは入れてほしい」と要望する魚が、高級魚のノドグロだ。

一六堂が経営する店舗で昨年提供した約28万匹のノドグロのうち、浜田産は最多の約4割。「ノドグロを日本一提供している店」とうたう八吉では、ざるに載せた約350グラムの1匹に3800円の値札を付ける。

「北陸で食べたことがある客が驚くほど、段違いの脂乗りとうまみがある」。一六堂の小松睦・漁港仕入担当部長(39)は品質に太鼓判を押す。

出店拡大を続ける同社は昨年12月、東証1部に株式を上場した。その成長に、浜田の魚が欠かせない存在となっている。

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一方、江津市渡津町に本社を置く若女食品の浜田工場「びーびー工房」(浜田市原井町)では、機械でアジを3枚おろしの切り身に加工。主にスーパーで売られるすしや刺身用に全国へ出荷する。

浜田で水揚げされるアジはノドグロ、カレイとともに市の「どんちっち」ブランドに数えられ、全国屈指の脂乗りを誇る。

ただ、春先から夏にかけてのシーズン中、同社が1日に加工する量は約4トン。地元産だけでは賄いきれず、長崎、福岡、境港など幅広い産地からアジを調達せざるを得ない。そうした中で、見えてくる浜田産の価値がある。

「どんちっちがあるなら、買いたい」-。得意先となる関東の鮮魚量販店や百貨店からは、こうした「指名買い」が入る。若女食品の灘公治・営業部長(56)は「産地が考えているよりも、消費地での評価は高い」と強調。関東からが中心だった「指名」はここ数年、関西にも広がり、数も増えてきた。

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再び東京・秋葉原。8月下旬、仕事帰りのビジネス客でにぎわう一六堂の「八吉」に、都内のIT関連会社に勤める藤田英一さん(45)が同僚2人を連れて来店した。今年の夏休みに家族旅行で訪れた山陰で「ノドグロを食べ損ねた」ためだ。「こんなにおいしい魚が身近にあるなんて、うらやましい。是非また行ってみたい」

県内最大の水揚げを誇る浜田漁港。第5部は同港を取り巻く漁業や加工業の現状を追い、浜田の水産業を考える。

 

 明日へつなぐ<石見活性化企画> : 第5部 浜田の水産業(2) 沖底船の再生
 


第五・第六あけぼの丸が水揚げしたシール付きの「高鮮度箱」。高付加価値化で収益改善を図る

船団存続へ改修事業始動 

8月19日午前5時、浜田市原井町の浜田水産物地方卸売市場。2カ月半の休漁期が3日前に明けたばかりの沖合底引き網漁の競り場に、「船上高鮮度冷海水仕立て」のシールが付いたトロ箱が並んだ。

中身は、浜田あけぼの水産(浜田市原井町)の「第五・第六あけぼの丸」が水揚げしたミズガレイとノドグロ。

2012年に国の支援事業を活用し、大規模改修した同漁船には、他の船にない海水冷却装置と魚倉保冷装置が導入してある。網から揚げた魚を冷海水に漬け込む船上での高鮮度処理は昨年の漁期から実施しているが、鮮度管理をより徹底したものにシールを付けて今期、出荷を本格化させた。

従来はいったん冷やし込んだ魚を魚倉からデッキに上げ、サイズごとに細かく選別していた。シール付きの高鮮度箱は選別作業を省き、人の手や外気に極力触れさせないことで魚体温度の上昇を防いでいる。さらに4~6日操業する沖底船で、漁獲日を「帰港3日前の正午以降」に限定し、刺し身にできる鮮度を保証した。

高鮮度箱を競り落とした鮮魚仲卸のマルセイ商店(浜田市原井町)の下野誠治社長(65)は「要は送り先の中央市場でどう評価され、値が付くかだ」と、始まって間もない取り組みの先行きを見守る。

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浜田市の沖底船は5船団が操業。松江市の恵曇漁港から入港する1船団を合わせた12年の水揚げは16億1200万円(3021トン)で、浜田漁港の水揚げ総額の約3割を占める。とりわけ浜田市内に集積する多くの加工業者にとって、原魚調達になくてはならない存在だ。

しかし水揚げは減少を続け、頼りの地元船はいずれも建造から25年前後が経過して老朽化が進む。

改修した第五・第六あけぼの丸は1987年建造。その年、地元沖底船は19船団が操業し、42億3300万円(1万トン超)の水揚げがあった。その後、10年以上にわたり続いた韓国漁船との漁場競合などが影響し、船団数は減少の一途をたどる。

「リシップ」と呼ばれる漁船改修事業は、残る5船団の存続を懸け、地元官民で計画を練り上げた唯一の生き残り策だった。

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計画では、大掛かりな改修により10年間は操業できるよう漁船を長寿命化。老朽化で増大する毎年の修繕費など経費を圧縮させながら、漁獲物の高付加価値化で収入を増やし、収益性の改善を図る。これにより、10年後の新船建造の投資に備える再生の道筋を描く。

国の実証事業に選定され、先駆けて改修を行った浜田あけぼの水産の室﨑拡勝取締役(34)は「新船の建造に向け、大きな一歩を踏み出したところ。冷海水を使った高鮮度仕立ての魚が、収益改善の切り札になる」と力を込める。

残る地元の4船団については、県、市が国の事業に準じた支援策を用意し、改修を後押しする。予算の工程表に照らすと、改修工事は15年度までに着手されることになる。

浜田の水産業の命運を握る沖底船の再生が、重要な局面を迎えている。 

 明日へつなぐ<石見活性化企画> : 第5部 浜田の水産業(3) 技術支援
 


多田商店の多田勝和社長と意見交換する県水産技術センターの井岡久科長(左)

 付加価値へデータ駆使

「乾燥工程の温度管理で、出来上がりの味は変わるはずです」。今月上旬、県水産技術センター(浜田市瀬戸ケ島町)の井岡久・利用化学科長(57)は、カレイの干物を製造する多田商店(同市港町)を訪ね、こう説いた。

水技センターは市の委託研究で、島根大とともに浜田漁港に水揚げされるカレイの成分分析を実施。季節ごとの成分特性や、うま味成分となるイノシン酸の分解と温度の関係についてのデータをこのほどまとめた。

これに基づき、同社は今夏から、冷風乾燥機の設定温度を下げるなどの試みを始めている。「冷凍と生ではどう変わるのか」「天日干しの科学的評価は」-。多田勝和社長(56)は矢継ぎ早に、井岡科長に質問をぶつける。

浜田市はカレイの干物の生産量が日本一で、全国の4割超を占める。しかし、近年は食嗜好(しこう)の変化などによる消費の落ち込みにあえぐ。

成分分析のデータは加工技術に生かせるだけではない。「品質や味の科学的な裏付けができれば、販路開拓の商談で有力な売り込み材料になる」。多田社長は期待を高める。

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現場の声に応える研究に近年、力を入れている水技センター。「寄せられる相談に応じるだけでは、本当の課題を見つけることはできない」。井岡科長が加工業者に出向いて回るのは情報やデータの提供とともに、研究テーマとなる悩みや課題を収集するためでもある。

現場で生かされる研究へと、より傾注する契機となったのが「どんちっちアジ」の脂質検体機器の技術開発だ。

近赤外線を利用した測定器をベースに、アジの脂質含有量を導き出す計算式を確立。以前は出荷の翌日に出ていた数値結果が、競り場で即座に分かるようになり、ブランド化を強く後押しした。

開発した技術は完結してはいない。回遊魚のアジは、海域や捕食するもので脂質が異なり、それによって測定値に誤差が生じる。検体機器の運用を開始した2005年以降も、毎年のように脂質は変わり、その度に漁業者らと意見を交わしながら、より正確な精度を求めて補正、改良を続けている。

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アジの脂質以外への応用も動きだしている。沖合底引き網漁船で水揚げされるマフグ。市場では「白子(精巣)があるため価値の高い雄を見分ける方法があれば」という声が上がっていた。

これに関しては2年前、研究に着手。アジと同じ近赤外線を当てて、水分などの波長から雌雄を判別する方法を生み出し、現場で活用することを目指す。

今年4月に担当となった利用化学科の石原成嗣・専門研究員(44)は「これまで蓄積してきたデータがあるからこそ、応用展開もできる」と語り、キダイやマダイの脂質測定に向けた準備も進める。

品質や価値を高める技術面での支援。厳しい市場環境に立ち向かう水産業の現場で、その役割が大きくなっている。

 明日へつなぐ<石見活性化企画> : 第5部 浜田の水産業(4) 協業に活路
 


中村水産の協力を得て新商品を開発したシーライフの加工場

 個社でなく産地で勝負

干物などを製造するシーライフ(浜田市瀬戸見町)は昨夏、浜田漁港で水揚げされたサワラやサバなどの切り身をみそ漬けにし、焼き上げた商品を開発した。首都圏のスーパーなどで販売され、台湾の商談会にも参加して売り込んでいる。

ただ、同社工場で行うのは味付けまでの下処理。特徴である冷めても固くならない、ふっくらとした焼きに仕上げるのは、中村水産(同市原井町)の過熱蒸気焼成装置(スーパーヒーター)だ。

中村水産は山陰両県で唯一という同装置を10年前に導入。アナゴのかば焼きのほか焼エビ、ブリの照り焼きなど幅広く使用し、魚種によって最適な温度で焼き上げるノウハウを蓄積している。

シーライフが干物以外の新商品を開発するにあたり、直面した壁が設備だった。中村水産とは一次処理の注文を受ける関係にあり、同装置の存在も価値も、認識していた。

「開発の段階で設備投資するほどの冒険はできない。自社だけでやろうと思っても無理だった」。シーライフの河上清志社長(46)は、しみじみと語る。

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両社の協業の土台となる組織は、2007年発足のスカイブルー食販協同組合(浜田市原井町)。浜田、江津両市の水産関連15社で、主に販路の共同開拓に取り組む。

加盟社の鮮魚、加工品を集め、「魚舞(うまい)もん」のブランドで県外の商談会に出展するほか、組合でバイヤーの視察を受け入れ、各社の商品をそろって提案。それぞれが持つ取引先を紹介し合うこともある。

事務局長を務める国田一義・若女食品工場長(44)は「手を携えることで、1社ではそろえられない商品をまとめて提案できるメリットは大きい」と意義を強調。販売面にとどまらず、組合内の個社間での共同加工といった連携も、広がりを見せている。

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とはいえ、こうした協業の動きは業界全体から見れば、まだ一部。業者間連携を加速させ水産加工業の活性化につなげようと、行政も動く。

今月13日、浜田市片庭町の県浜田合同庁舎。原魚確保対策として、低利用・未利用魚を活用した商品開発などをテーマにした勉強会に、水産加工業者や行政関係者ら36人が顔をそろえた。

連携に向け、まずは同じテーブルに着き、課題や危機意識を共有することから、と県西部県民センター商工労政事務所が今年2月から開催している勉強会の3度目。大手食品メーカーの開発担当者や大学教授らが講師を務め、参加者は知識を習得しながら、互いの意見を交わす。この集まりの中から、業者同士の自主的な連携に発展することを目指す。

シーライフの商品開発に協力した中村水産の中村勝平社長(69)は「地元業者から設備使用の要請があれば、いつでも受ける用意はある」とした上で、こう語る。「個社でなく産地として勝負しなければ、これからの競争時代に生き残れない」

 明日へつなぐ<石見活性化企画> : 第5部 浜田の水産業(5) まちづくりに生かす
 


魚をさばく子どもたちを見守る県立大の坂口結花さん(右手前2人目)と相沢美里さん(同3人目)

 地域で魚の価値共有を

「地元の人にとって『あって当たり前』の魚の価値に気付いてもらいたい」。浜田市原井町のしまねお魚センターで、楽しそうに魚をさばく子どもたちの姿を見ながら、県立大総合政策学部3年の坂口結花さん(21)と相沢美里さん(21)は、その思いを強くした。

2人で企画した小学生向けの料理教室「さかなのがっこう」が28日、スタートした。市内の5、6年の男女8人が参加し、10月末までの計4回、地元に水揚げされたアジやイカ、カレイなどの調理に挑戦する。

魚食普及とふるさと教育の実践とともに「浜田=魚のまち」のPRを狙った企画は、昨年末に開催された同大のビジネスプランコンテストで最優秀賞に輝いた。

それぞれ熊本県、宮城県出身の坂口さんと相沢さんにとって、「浜田」と「魚」は最初から結び付いていたわけではない。

意識が変わったきっかけは、2年時のゼミで行ったお魚センターの活用策を探る調査。来場者や関係者への聞き取りを通じて「種類が豊富で、おいしい魚があることに気付かされた」。同時に、その価値が地元で共有されているのか疑問を抱いた。

企画した料理教室では最終的に、小学生のアイデアで作ったメニューを、11月3日に市内である「BB大鍋フェスティバル」で販売する。市内の官民でつくる実行委員会が主催し、魚をメーンにした鍋を振る舞う一大イベント。「どんなメニューができて、どんな反応を得られるのか今から楽しみ」。2人は期待を膨らませる。

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都会地でも評価の高い地元の魚への理解を深めるとともに、観光やまちづくりに生かそうという試みは他にもある。

浜田市黒川町のホテル松尾では、一風変わった姿のウチワエビにアナゴの天ぷら、殻に入ったサザエなど、地元の新鮮な魚介類を豪快に盛り付けた「海賊丼」がレストランで一番人気。広島などから訪れた観光客の注文も少なくない。その多くが「石見の神楽めし」のパンフレットを手に来店する。

神楽めしは、石見地域の食材を観光客にアピールする石見ツーリズムネット主催のキャンペーン。参加店は独自のメニューを提供、海賊丼は魚をメーンに使う「えびす丼」の一つとして紹介される。

「浜田を訪れる人は必ずといっていいほど、おいしい魚を食べたいと思う。そのイメージに企画がうまく合致した」。同ホテルの松尾明社長(58)はヒットの要因を説く。

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県立大生企画の料理教室のメニューを販売するBB大鍋フェスティバルは、今年で21回目。「魚は浜田の宝」という関係者の認識共有からスタートしている。

海賊丼以外にも、地元の海の幸をふんだんに使った料理を「売り」にする松尾社長は「水産業あっての浜田で、宿泊・飲食業も支えられている。持ちつ持たれつの関係で、協力していかなければならない」と力を込める。

「水産のまち」の振興には、地域を挙げての取り組みが欠かせない。

=第5部おわり=